現在我が国で行われつつある運命学を大別すると易学、四柱推命学(先天運推理学)姓名学、印相学、九星術(気学)、手相、骨相、人相、家相、墓相、墨色判断、その他、多種多様であるが、なかには全く取るに足りぬ非科学的な迷信的なものが多い。
試みに街の書店で見ると姓名判断と称する本には、蔭陽の配置の吉凶や読み下し意義は人生の八割までの運気を司ると言ったものや、某有名レコード会社の専属作曲家が終戦直後より統計数理姓名学を研究したというその著書によると
女性の名前に「濁音」と「ツ音」は大々凶で
敦子、藤子、静子、貞子、信子、和子、鈴子、田鶴子のような濁音のつく名前や光子、節子、悦子、松子、克子、理津子のような「ツ音」の入る名前は、夫と生死別、晩年大凶、男の子供に恵まれず養子養女を迎えても家庭不和、女性運強いときは夫短命となり、
さらに後家相の名前は、名の頭に三画と十三画の文字の使用するのは後家相でこれは科学的根拠があると言っているものや易占の書に硬貨による蔭陽を分けて判断する方法
など、どの書を見ても面白く活用容易といったものが多い。
しかしなぜに「濁音」のつく名前は凶か「ツ音」の入る名前は凶であるかという学問的な理論は無くさらに女の名の頭に三画と十三画の文字は後家相と言うが三、万、久、千、小などの使用の名前も多く、幹、愛、敬、照、稔、義、郁、鈴、靖、絹、聖、睦、園などの文字の使用は悪く、これらの文字にいかなる科学的に凶であるとの根拠がどこにあるのか、
全く噴飯のいたりでこのようないいかげんの本を手に入れた人が実際的に応用されたら大変な事になるとある種の戦慄さえ禁じ得なかった。
昭和五十年四月のある日○○高等学校校長の来訪を受けた時、次の名前の鑑定の依頼を受けた。
上にもとづき
天人関係(成功運)
困難なるも努力邁進すれば成功する。しかし多くは心身を過労、不遇不平を生じやすい。
人地関係(基礎運)
苦しまなくて良い事に苦しみ、急変没落悲運あり。
主運人格27数理
自我心強く、ひなん運と称し失敗するもの多し。中絶半途中折れの象あり、中年頃まで智謀と努力とにより、名利共に行われることあるも、内外不和をかもし発達なりがたく、他運との関係により遭難孤独厄難変死者多い。
副運外格4数理
破壊の凶相不具不完滅亡の兆象あり、進退の自由を欠き独立の力とぼしく変死、短命の誘導は他の凶運の配合によりたちまち現われ、破滅逆難を免れずいづれにしても世の中に不用の人となる暗示。
前運地格20数理
物の割れんとする象、短命非業の誘導ある大凶悪の運命で一生の平安を得ず、幾多の災難来り、あるいは凶禍しきりにおそい、厄難遭難短命非業破滅の凶兆を示す。
後運総格30数理
浮沈きわまりなく善悪定めがたい運数、善運に乗ずればその成功や大なりといえども、守成に忠でなければ何時しか成功を失い、否運に陥ればその困苦や測るべからずといえども、突然意外の方向に展開する。なれども大体において悲運薄倖は免れない。
以上数理の示すままに説明すると、校長先生は一冊の姓名学書を示され
「この本には(隆)は十二画になっていますが、なぜ先生のは十七画に計算するのですか」
との質問で私は
「文字には意表文字と音表文字があり、音表文字は「イロハ」や「あいうえお」その他英字の「アルファベット」などは形のままの画数であるが、意表文字(漢字)は文字の構成原理に基づき扁や旁りを正しく見究めて計算する必要があり「隆」は(こざとへん)阜で八画に九画を加えて十七画になり「久」三画により二十画の短命運数となる」
事をくわしく説明すると校長先生は
「御説の通りです。これは実は私の長男で、この名前は私がこの本を見て名付けました。もちろん「隆」十二画「久」三画で計十五画は福徳円満のつもりでしたが先生の鑑定通りで、この子は××大学に在学中に急死しました。私は今までなぜ長男が急死したのか全く理解に苦しんでいましたが今はっきりその原因がわかりました。このような本は世に害が有っても益がないから破り捨てましょう」
と言われたので、私は参考にしたいとその本をいただき、保存しています。